ドイツのケルン音楽大学で室内楽を教えているシピリ先生のレッスンを聴講した。先生は音楽の歴史や時代の音楽形式、作曲家の国柄、楽器の特徴などあらゆる要素から導き出して、それを表現できる先生だ。
ピアノの曲だけにとどまらず、オーケストラ、オペラ、室内楽と音楽全般のいろいろなジャンルに造詣が深い先生ならではのレッスン。例えばここはキリエのモチーフ(題材)だね。この三連符はドイツというよりウィーンの方だね。17世紀の作曲家は誰がいる? アンダンテ(速度表示)はシューベルトの時代にだんだん遅くなったんだよ。この曲と同じリズムを使われているのは誰の何番の交響曲だね。など話がピアノの曲のことにとどまらず膨大な知識から、音型を分析している。
そのように一緒に細かく気が付くことで、どう弾くかの可能性がたくさんあることに気が付く。自分一人で練習していると、理想とする表現が自分の経験した範囲内の過去の知識や経験からしか頭に浮かんでこないので、誰かが弾いていたような演奏になっているかもしれない。
どんなアーティキュレーションを(音に表情をつけること)つけるか可能性がたくさんあり、一つの枠にとらわれないで、膨大な知識から新しい可能性を試す。まだ聞いたことのない新しい表現がそこにあり、その表現力こそ演奏者と音楽作品のコラボレーションで唯一無二の芸術になるのだ。
その人にしか表現できない音楽を追求することは、ピアノ演奏者から音楽家、そして芸術家になるように並大抵ではない。その深い深い世界の一端を知れただけでも大きな収穫だった。やることがまだまだたくさんありそうだ。
コメント